耳には「音を聞く」「体のバランスをとる」という大切な2つの役割があります。
音は、外耳道、鼓膜、蝸牛、蝸牛神経などを通って脳に伝えられ、私たちは高い音から低い音まで、様々な音や言葉を理解することが出来ているのです。
耳にある前庭器官や三半規管は、体のバランス(平衡感覚)をつかさどる上で重要な役割を果たしています。私たちが真っ直ぐ立っていられるのは、身体のそれぞれの位置を把握し、手足や頭などが傾いていないかをきちんと感じ取れているからなのです。
耳鼻咽喉科では、この耳に生じた異変を診察し、病気や異常を見つけ、必要な治療を行なっています。
中耳炎には幾つかのタイプがありますが、この中で小児に最もよく見られるのが急性中耳炎です。風邪をひいて頻回に鼻をすすってしまい鼻咽腔の細菌やウイルスが耳管という鼻の奥から耳につながる管を通じて鼓膜の奥の小さな空間(中耳)に入り込んで増殖すると、急性の炎症が起こり、膿が溜まっていき急性中耳炎となります。乳幼児は免疫が弱く集団保育で細菌やウイルスにさらされやすく急性中耳炎を反復することが多いです。
乳幼児などは、耳の痛みを言葉でうまく伝えられないので、機嫌が悪くぐずって、泣き叫んだり、しきりに耳に手をやったりします。このような異変に気付いたときは、急性中耳炎が疑われますので、お早めに耳鼻科を受診するようにして下さい。
耳だれがある場合は丁寧に吸引除去し、綿棒で拭いて耳の中をきれいにします。そのうえで下記の治療を行います。
【抗菌剤の点耳と抗生剤の内服】
耳だれがある場合は、抗菌剤の点耳を行います。鼓膜の腫れ、痛み、熱がある場合は抗生剤を内服して細菌を減らして腫れや痛みを和らげていきます。
急性中耳炎では1~3日間、耳の痛みと熱発を伴いますので鎮痛解熱剤で症状をやわらげます。
急性中耳炎では中耳に膿が溜まっていることも多いので、鼓膜の腫れや痛みが強い場合は、鼓膜を少しだけ切開し、膿汁を外に排出させます。これにより、痛みや不快感が速やかに治まります。切開した穴は数日で塞がります。
ご家庭でできること
耳だれがあれば、できる範囲でふき取ってください。また鼻水が出ている場合は、お子様なら鼻をふいてあげて、可能なら市販の鼻吸い器で吸ってください。
滲出液が中耳(鼓室)に貯留し、聴力が低下している状態が滲出性中耳炎です。急性中耳炎後に中耳に慢性的な炎症が起こり、耳管の機能低下や鼻すすりの癖などで滲出液がたまって発症します。乳幼児や小児では、アデノイド肥大が一因となります。急性中耳炎と異なり耳の痛みはありません。乳幼児に多い病気です。
中耳の滲出液により鼓膜の振動が悪くなって音の伝播がブロックされて聞こえにくくなり、耳のふさがった感じがあらわれます。耳の痛みや発熱はありません。片耳の場合だと気づかないことも多いです。小児の場合は就学前や後に行う健康診断や耳鼻咽喉科を受診した際に見つかったということもあります。両耳では日常生活に支障が生じるほど聞こえが悪くなります。
時間経過とともに自然になおることもありますが改善しない場合は下記の治療を行います。
薬物療法としてはカルボシステイン(粘液修復薬)の内服が第一選択となります。その他に原因となる病気がある場合はその治療を行うことになります。鼻副鼻腔炎を合併している場合はマクロライド療法(クラリスロマイシン少量長期投与療法)、アレルギー性鼻炎であれば、抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻薬を使用します。
中耳(鼓室)の換気と滲出液の排液を目的に空気を耳管経由で中耳に送り込む治療です。小児では痛みのないようにゴム球で空気を鼻から送るポリッツエル通気治療を行います。大人では通気菅という管を耳管に入れて空気を通します。
自己通気用の風船(オトヴェント®)を用いた自己通気を自宅で1日3回以上行うことも有効です。
たまった滲出液で聞こえが悪い場合は、鼓膜を切開して滲出液を取り除くことがあります。
3ヶ月様子をみても治らない場合は難聴の有無の確認、鼓膜の癒着などの変形を慎重に判断し、滲出液が溜まらないように鼓膜に小さな換気チューブを入れる手術(鼓膜チューブ挿入術)を行います。鼓膜チューブは自然に脱落するまで留置しますが、留置後2年経過した場合は医師が抜去します。鼓膜チューブ脱落後の穴は自然に閉鎖することが多いです。
滲出性中耳炎の治療は長引くと数年以上かかることもあるので、根気よく治療を続ける必要があります。
急性中耳炎の治療をきちんと受けられず、耳の中に膿や炎症が残っている状態が続くと、鼓膜に穴が開いたままになって慢性中耳炎に移行してしまいます。鼓膜は再生力がありますので、通常は穴が閉じていくのですが、炎症が収まらない状態が続くことにより、再生が追い付かなくなるのです。これが一般的な慢性中耳炎です。
もう一つ、別の機序で起こる真珠腫性中耳炎があります。鼻すすりの癖や、耳管機能が悪く中耳の換気が不良になっている状態が続くと鼓膜の一部がへこみ始めます。徐々にへこみが大きく深くなり、その中に真珠のような柔らかい塊ができます。放置すると周囲の骨を溶かして、聞こえにくくなり、めまいや顔面神経麻痺、髄膜炎を起こす場合もあります。
軽度ならば中耳の粘膜の腫れや膿を取り除くため、抗菌薬を点耳したり、抗生剤を内服します。鼓膜の穴が大きいケースなどでは、鼓室形成術という手術を選択することもあります。中耳の病変組織を取り除き、中耳炎によって破壊された耳小骨を修復することによって、聴力の改善や耳だれの停止などを目指すのです。
耳の穴の入り口から鼓膜までの外耳道に炎症が発生するのが外耳炎です。過剰な耳いじりや水泳・入浴後の綿棒による耳掃除などの際に外耳道の皮膚を引っかいてしまうと、そこから細菌やカビが侵入して炎症が起こります。
外耳道が腫れあがって耳だれがある場合は、耳だれを丁寧に吸引除去し、綿棒で拭いて耳の中をきれいにします。そのうえで抗生剤・ステロイド含有軟膏の塗布、抗生剤の内服が必要です。痛みが激しいときは、鎮痛解熱剤を使います。
カビ(真菌)が原因の場合は外耳道内に白色や黒色の塊があるので、除去後に外耳道内を洗浄して、ブロー液と呼ばれる消毒液を用いて殺菌します。その後に抗真菌剤軟膏を塗ります。
症状に応じて抗真菌剤やかゆみ止めの抗ヒスタミン薬の内服を行う場合もあります。カビによる外耳道炎は再発しやすいので注意が必要です。
なお、糖尿病で免疫力が低下した方に長期にわたり激しい痛みや耳だれが続くこともあります。悪性外耳道炎とよばれる難治性の疾患です。症状がなかなか治まらないときは、お早めに耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。
外耳、中耳、内耳や脳などに何らかの問題が起こることにより、周囲の音が聞こえにくくなる病気です。難聴の程度や原因によっては、重大な疾患が隠れていることもありますので、「単に聞こえが悪くなっただけだろう」と軽視せず、耳鼻咽喉科で検査を受けておくことが重要です。
難聴には中耳炎、外耳炎以外に突発性難聴、メニエル病、加齢性難聴、騒音性難聴、遺伝性難聴、心因性難聴などがあり、その原因によって治療法も異なってきます。早期に治療を開始しないと、聴力回復が見込めなくなる事もありますので注意するようにして下さい。
突発的に耳(通常は片側)が聞こえなくなる疾患です。難聴の症状以外にも、耳鳴り、耳閉感、めまい、嘔気、嘔吐が同時に起こることもあります。原因不明の高度難聴です。血流障害、ウイルス感染や免疫の異常、細胞内ストレス制御機構の異常亢進などが原因と考えられています。
純音聴力検査を行い高度の難聴を確認し、頭部MRIで聴神経腫瘍などの原因が明らかな疾患を除外します。
治療は、早ければ早いほど、聴力が回復する可能性が高くなるので、とにかく早期に(発症後2週間以内)治療を開始します。多くは、炎症や異常な免疫を抑えるステロイド薬の内服または点滴が中心になります。場合によっては血管拡張剤(プロスタグランジンE1製剤)を使用することもあります。発症2週間以内であれば高気圧酸素療法も治療の選択肢の1つとなります。
なお突発性難聴については、様々な治療法がありますが、どの治療法が最も有効かは明らかではありません。現時点では、発症時の状況や臨床所見、既往歴などを総合的に判断し、治療法を決定しています。
耳鳴症とは、周囲に音源が無いのに、音が鳴っているように聞こえる症状のことを言います。音の種類は「キーン」「ピー」「ジー」「ザー」「ゴー」など、人によって様々です。人口の20%程度の方が何らかの耳鳴りを経験したり、有していると言われています。耳鳴りはご本人にしか分からず、他人に理解されにくい、つらい病気です。耳鳴りの患者さまの8~9割には難聴が伴います。超高齢化社会を迎え加齢性難聴に伴う耳鳴が増加しています。なお1日に数回数秒程度の耳鳴りを感じる程度では生理的なものと思われますので心配する必要はありません。
耳鳴りの原因には、外耳・中耳・内耳の異常、神経・脳の異常、体内の雑音(頸動脈の拍動音、耳小骨筋や軟口蓋の痙攣等)といったことがありますが、過労やストレスなどによるケースもあります。
純音聴力検査、画像検査(MRI、CT)、聴覚心理学を用いた客観的な耳鳴りの検査がありますので、これらの検査から耳鳴りの原因になっている疾患や、その性質を明らかにします。
主に原因療法、薬物療法、耳鳴りの順応療法(心理療法)などがあります。原因療法は、耳鳴りの原因が明確な場合に行われます。中耳炎による難聴が原因なら中耳炎の治療を、メニエール病や突発性難聴が原因なら、それに対する治療を行います。体内の雑音ならその音源に対する治療を行います。一方で加齢性難聴を含めた内耳、神経、脳が原因と思われる耳鳴については難聴が耳鳴りの原因であることが多く、補聴器を装用することで周囲の音が入るようになり耳鳴が抑制されます。難聴が軽度で補聴器の適応がない方はできるだけ快適な音楽やテレビ、ラジオ等の音を聞いて耳鳴りを感じにくくすることが肝心です(音響療法)。現時点では薬物療法は確実な効果を得にくいのですが、循環改善薬や代謝改善薬、ビタミン剤などが用いられます。苦痛の程度によっては抗不安薬、抗うつ薬、漢方薬などが使われることもあります。耳鳴りの苦痛が著しい場合は、雑音で耳鳴りを遮蔽する(マスカー療法)、TRT療法(個人の聴力に合った雑音を補聴器から繰り返し聞くことによって、耳鳴りを気にならなくする治療、自費診療)などがあります。 また心理療法は、カウンセリング、バイオフィードバックを用いた自律訓練法などによって耳鳴りを自己コントロールする方法です。 耳鳴りのカウンセリングは、耳鳴りはどうして起こるのか、MRIやCTで脳や中内耳に異常はなかったので安心して下さいと声掛けし、耳鳴りに慣れて気にならなくなれば心配ない等の説明を行い苦痛な耳鳴りを気にならないようにする心理療法です。
なお耳鳴りは経過が長期にわたる場合が多いので、根気よく治療を続ける必要があります。
耳あか(耳垢)は立派な病気で、耳垢が外耳道内で多量に溜まることによって完全に塞がり、まるで耳栓をしたかのように聞こえが悪くなっている状態で、耳垢栓塞と言います。「耳垢栓塞症(じこうせんそくしょう)」という、れっきとした病名がついています。ですから、耳鼻科での耳掃除には、もちろん健康保険が使えます。数か月おきに定期的に来院なさる患者さんもよくおられます。
「耳掃除なんかで受診していいのでしょうか?」とお聞きになる患者さんが時におられますが、もちろん構いませんので、遠慮無くご相談ください。
耳掃除にあたっては、耳鏡、顕微鏡、綿棒、鉗子(かんし)、フック、剥離子(はくりし)など、さまざまな器具を使用して、処置にあたります。
耳垢は乾いた(ドライ)状態と湿っている(ウェット)状態のものがありますが、ドライな耳あかは何もせずとも自然と排出されるようになります。しかし、ウェットな耳あかは外耳道内で付着しやすいばかりか固まりやすい特徴もあるので、綿棒や耳かきで耳掃除をしたつもりでも逆に押し込んでいる状態になることもあります。さらに入浴やプールなどで外耳道に水が入って耳あかが膨張するようになると、外耳道は完全に塞がるようになるのです。これにより軽~中程度の伝音難聴、耳閉感や異物感などが現れるようになります。
「耳垢を取ってほしい」ということでご来院なさっても、実際には耳垢は溜まっていないこともありますし、ぎっしりと詰まっている場合もあります。耳垢がほとんど無い場合には、むしろ他の病気によって耳の違和感が生じていないかに注意する必要があります。外耳炎を伴っていることもありますので、外耳道の皮膚の状態もよく診ます。
耳の詰まったような違和感のある場合には、一度耳鼻科医に相談なさることをお勧めいたします。