のどには食べ物をかみ砕いて飲み込む働きと呼吸をしたり、声を出す働きがあります。さらに、くびには細菌やウイルスを取り込んで壊す働きをするリンパ節や全身の新陳代謝などに関わる甲状腺などがあります。
どれも重要な機能ですので、この部位が病気になると生活の質が大きく低下します。下記のような徴候が見られた際には、お早めに耳鼻科を受診して下さい。
口の粘膜に痛みを伴う小さな丸い白い斑点ができて、浅い潰瘍を認めます。これを口内炎といいます。原因はヘルペスウイルスなどによるウイルス性口内炎が多く、夏に多いヘルパンギーナや手足口病もウイルスによるものです。口内炎を反復する場合は、ベーチェット病や天疱瘡などの検査を行います。
ステロイド含有軟膏を患部に毎食後塗布します。喉の奥の口内炎には、粉末型ステロイド噴霧薬を患部に散布します。ビタミンCの内服やうがいも行います。多くは1週間以内に治癒します。
お口を大きく開けると、奥の方の左右に楕円形の出っ張りが見えます。これが扁桃です。扁桃炎は、この左右にある扁桃が腫れてくる病気です。
扁桃の働きは体の免疫と深く関係しています。口から侵入してくるウイルスや細菌を扁桃に取り込んで、悪いもの(抗原)として体に記憶させています。そのため扁桃に侵入したウイルスや細菌が体調不良などで増殖し、扁桃炎を引き起こすことがよくあります。
扁桃が炎症を起こすと、食事中や唾を飲み込むときにのどが痛くなり、熱が出ます。悪化すると、痛みのために飲食ができなくなります。
扁桃炎をおこしているウイルスや細菌を綿棒でぬぐって検査を行い、血液検査でも見極めます。
扁桃に膿が付いている場合は、除去します。溶連菌という細菌が原因なら有効な抗菌薬を処方します。のどの痛みをとる鎮痛解熱剤やうがい薬も処方します。これにより、通常は1週間程度で治癒します。
扁桃炎を1年間に3~4回、2年間で5~6回繰り返す場合は、扁桃摘出手術が勧められますので、総合病院にご紹介いたします。
扁桃が大きい場合を扁桃肥大といいます。また鼻の奥にあるアデノイドが大きい場合をアデノイド肥大といいます。口呼吸、いびきの原因になったり、睡眠時無呼吸症候群の原因になることもあります。症状がなければ、問題はありません。扁桃肥大、アデノイド肥大の多くは中学生頃に小さくなります。
電子スコープでアデノイド肥大の程度を確認します。睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、大人の場合は自宅で携帯用検査装置をつけて寝ていただき検査結果を確認します。幼小児ではご自宅でいびき、無呼吸時の動画を撮影いただき当院で確認します。
幼小児で、高度の扁桃肥大、アデノイド肥大がある場合は、扁桃・アデノイド摘出手術の適応となりますので、総合病院にご紹介いたします。
大人で扁桃肥大がない場合の睡眠時無呼吸症候群の場合は、軽症なら歯科でのスリーブスプリント(夜間装用するマウスピース)作成、重症なら総合病院にご紹介しポリソムノグラフという詳しい検査をおこなっていただきます。検査結果で適応があれば、寝る時にCPAP(経鼻的持続気道陽圧療法)と呼ばれる鼻につけたマスクから空気を持続的におくる治療を総合病院で継続していただきます。
鼻や口の奥には、空気や食べ物が通る咽頭という管状の器官があります。咽頭炎は、この部位にウイルスや細菌が侵入して、のどの粘膜が赤く腫れてくる病気です。食物などを飲み込むときに激しい痛みを覚えるようになります。また発熱、首のリンパ節の腫れや咳や痰、倦怠感、頭痛などの症状が見られることもあります。
症状が強い場合は、診察時に、綿棒でのどをぬぐって溶連菌とアデノウィルスの迅速検査を行います。5分で結果がわかります。
溶連菌が原因なら、ペニシリン系抗生剤を10日間内服します。アデノウィルスには治療薬がありませんが、多くは1週間以内に治癒します。また安静、適度な水分と栄養補給などを行ったうえで、症状に応じて解熱鎮痛薬を内服します。アデノウィルス感染時は、登園や通学が解熱後3日目から可能です。ご家族のみなさんも患者さんの唾液で感染しますので、タオルや洗面器などは患者様と分けて使うようにしてください。またこまめに手洗い、うがいを行い、感染予防に努めましょう。
喉頭は呼吸をして声を作り出す声帯やその周囲の部分です。飲み込む機能(嚥下)や間違って気管にものが入らないようにする誤嚥防止にも重要な役割をはたしています。この部分の粘膜にウイルスや細菌感染や声の使いすぎで炎症を起こしたものが喉頭炎で、かぜの際に多くみられます。声がかすれたり、出なくなったり、息苦しさや、甲高いケンケンという咳(クループ症候群)がでることがあります。
喉頭鏡や電子スコープで、喉頭を観察します。声帯やその奥の部分や更に気管の粘膜が腫れていることが多くみられます。
大半がかぜなどのウイルス感染でおこるため、去痰剤や消炎鎮痛剤などの内服で数日でなおります。細菌感染が疑われる場合には抗生剤を内服します。クループの幼小児には、院内でステロイドの入ったお薬のネブライザー吸入治療を行います。症状が強い場合は、入院治療目的で総合病院にご紹介いたします。自宅では室内の加湿、水分の補給を行ってください。
声帯に良性の腫瘍が出来る病気です。声がかれたり、出しにくくなったりします。仕事などで頻繁に長時間会話をされる方や教師や保育士で大声を出す方は、声帯を酷使することになるため、ポリープが出来やすいと言われています。
なお、ポリープと同じように見える腫れであっても、実際は喉頭がんであるケースもあります。きちんとした見極めが大切ですので、のどに違和感を覚えた方は、早めに耳鼻咽喉科を受診し、必要な検査を受けることをお勧めいたします。
喉頭鏡や電子スコープで、声帯を観察します。声帯に表面が平滑な腫瘤を認めます。
院内ではネブライザーでステロイドと血管収縮剤を溶かしたお薬を吸ってポリープの腫れを小さくしていきます。小さなポリープの場合は、声の衛生指導とよばれる声の使い方の指導を行います。要は声を使いすぎないことで、長時間しゃべったり、大声を出さない、不自然な高さの声を出さない、無理に咳ばらいをしない、のどを乾燥させない、冷やさない、喫煙やけむりを吸わないなどです。また大阪大学病院耳鼻咽喉科の音声外来にご紹介して発声方法の指導を専門医師とともに言語聴覚士の方に行っていただいております。
大きなポリープに関しては、総合病院や大学病院にご紹介いたします。通常は、顕微鏡を見ながらポリープを取り除く手術が行われます。この手術後、数日間は声を出すことが出来ませんが、徐々に元通りのきれいな声に戻ります。
唾液を作るところを唾液腺といいます。舌の下には舌下腺、あごの下には顎下腺、耳の下には耳下腺があります。実はくちびるの中にも唾液をつくる小さな唾液腺があります。
唾液腺にウイルスや細菌が侵入して炎症をおこすと腫れて、痛んだり、口が開けにくくなります。これが舌下腺炎や顎下腺炎や耳下腺炎です。
ムンプスウイルスが原因のおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)は皆さんよくご存じだと思います。耳下腺・顎下腺が片側か両側が腫れます。おたふくかぜになった方の80%以上が7歳以下の子供さんです。一側性や両側性の難聴を発症することがあります(0.01~0.5%)が、小さいお子さんでは、難聴に気づかれないことが多いです。
顎下腺や耳下腺をさわって、腫れの程度や硬さ、痛みの程度を確認します。血液検査で細菌かウイルスのどちらが原因かを調べます。
検査で細菌が原因と診断された顎下腺炎、耳下腺炎は、抗生剤や消炎鎮痛剤で治療します。酸味の強いものを食べると唾液分泌が増えて、腫れや痛みが増すので控えるようにします。
かまずに飲み込めるゼリーやプリン、おかゆなどが良いでしょう。数日で治癒します。
おたふくかぜは、鎮痛解熱剤で痛みをやわらげます。腫れが引くまでの約1週間は登園や通学はできませんので、自宅で安静にしてお過ごしください。おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)は、ワクチンで予防することが大切です。ムンプス難聴はなおりませんのでワクチン接種をお勧めします。
唾液腺から口の中に唾液を流しだすための管があり、これを唾液腺管と呼びます。この管の中に炭酸カルシウムなどで出来た小さな石ができて詰まるのが唾石症です。食後に急に唾液腺がはれて痛むのですが数時間で腫れが引いたり、軽くなるのが特徴です。
口の中の触診や、ブジーと呼ばれる細い金属線を唾液腺管に入れて唾石の位置を確認します。CTで確定診断します。
自然に排出されることも多いので、しばらく経過観察します。受診時に、排出されない大きさの唾石が認められた場合は、手術で摘出する必要がありますので総合病院にご紹介いたします。
多くは、顎下腺、耳下腺にできます。徐々に大きくなるのである程度の大きさになってから気づきます。良性腫瘍が多いです。良性腫瘍は、多形腺腫が過半数で、80~90%は耳下腺にできます。片側の耳下腺や顎下腺にできて、さわると硬い腫れを触れるのが特徴です。他にはワルチン腫瘍があります。柔らかい腫れを触れますが、ほとんどが耳下腺にできて、50歳以上の男性に多くみられます。両側性、多発性にできる方も10%程度おられます。
治療は、総合病院での手術による摘出術となります。
その他に、頻度は少ないですが、唾液腺癌があります。唾液腺癌の場合は大阪国際がんセンターや大学病院にご紹介いたします。
味がわからなくなったり、味覚が低下したり、本来の味とは違った変な味に感じたりする障害です。超高齢化社会を迎え味覚障害の方は増加しています。
亜鉛内服療法が効果が確かめられた治療法です。即効性はありませんが、3ヶ月から半年は継続していただきます。また鉄欠乏性貧血の方には、鉄剤を処方します。ビタミン不足が疑われる場合にはビタミン剤を処方します。うつ傾向がある方には、心療内科受診を勧めております。
口腔乾燥症とは、唾液の分泌が低下して、口が異常に乾いた状態のことを言い、“ドライマウス”とも呼ばれます。
軽症では口の中のネバネバ感、ヒリヒリ感が生じて、虫歯が増えたり、口臭も強くなります。重症になると、口腔内の乾きが進行し、強い口臭、舌表面のひび割れによる痛みで食べれない、会話しづらい、眠れないなどの障害も現れます。
平均的な唾液の分泌量は、一日あたり約1~1.5リットルで、唾液腺で作られて、口の中を快適な状態にして、口の雑菌の繁殖を防いでいます。
薬の副作用(抗うつ薬、鎮痛薬、抗パーキンソン薬、降圧薬などの多くの薬物の副作用として唾液分泌の低下があります)、糖尿病、シェーグレン症候群 (唾液腺、涙腺などが萎縮し、口と目が乾燥する自己免疫疾患)、年齢的なもの(年齢とともに唾液腺の萎縮が起こり、唾液の分泌量が低下します)、ストレス(ストレスがかかったり、緊張したりすると交感神経が刺激され、唾液の分泌が抑制されます)、口呼吸(鼻炎などで鼻呼吸ができずに、口で呼吸をすれば、唾液は蒸発してしまい口が乾きます)などがあります。なお唾液の分泌は夜間に減少しますので、「夜間に口が乾く」、「朝起きた時に口が乾いている」というのは普通です。
口腔内、舌の乾燥状態、唾液の分泌状態を観察します。シェーグレン症候群が疑われる場合には、血液検査で調べます。
治療としては、よく噛んで食事を行い、酸味のある食事をとって唾液分泌を促進します。積極的に水分を補給するように心がけるのも、有効な方法です。また市販の保湿力の高い洗口液、保湿ジェルもおすすめです。シェーグレン症候群では、人工唾液や口腔乾燥治療薬を処方します。口腔乾燥に有効とされる漢方薬を処方することもあります。
長期間の治療が必要になりますので、あきらめずに根気強く治療することが大切です。
咽喉頭異常感症は、「患者さんが、咽喉頭に異常を訴えるが、耳鼻咽喉科診察で、訴えに見合うような病変を局所に認めないもの」と定義されています。種々の検査で確認してはっきりした病気がない場合につく病名です。
口腔内、舌、咽喉頭を視診や電子スコープで観察して病変がないことを確認します。頚部のリンパ節を触診して、がんの転移等がないかも確認します。また逆流性食道炎と呼ばれる胃酸がのどに上がってくる病気に気づかずになっている方も多いので、Fスケールという問診票に記載していただき確認します。まれに過長茎状突起症候群という病気でのどの異物感や飲み込むときの痛みを感じる方もおられるので頚部CTやMRIで確認することもあります。更年期障害で、のどにつかえ感があり、普段から気になってしょうがないと言われる方も多いので、婦人科受診歴等のお話をうかがって確認しています。
診察で異常がないと診断し、十分に説明を行い、患者さんが理解されると多くの方は症状が軽くなるか、なくなります。
逆流性食道炎が原因の場合は、食べ過ぎない、食後2時間は横にならない、前かがみの姿勢をできるだけ避けるなどの生活習慣の改善と胃酸を抑えるお薬を内服していただきます。
更年期障害の方には婦人科でのホルモン補充療法のご相談を勧め、有効な漢方薬を処方します。
口腔内乾燥症が原因と考えられる方には、前述のお薬を処方して経過観察を行います。
心因性が疑われる場合には、作用の軽い抗不安薬を処方して、症状が軽快するか確認することもあります。